「チョイ悪中年ライダーズ
時を越えて~大学編 Vol.10」
(―― クラブ活動 ――)
「弓道かあ!」
小原田のアパートの下の部屋には
5年生の先輩が住んでいた
そして色々ためになる話をしてくれたが・・
「ぜひ我が弓道部へ入りたまえ!」
最後には必ず勧誘される
「弓道って弓を引いて的に当てるんですよねー
・・・面白いのかなーー?」
「これは武道だから体も鍛え精神も鍛える
から一挙両得だ!」
「へーー精神も鍛えるんだ!」
「そうだ!」
「そうですねー・・考えておきます!」
「待ってるぜ!」
轟先輩は4年時に主将をやっていたが留年して
現在 部活は活動していないらしい
しかしとても親切に指導していただいたので
如何しようか悩んでいた・・
この大学は色々なクラブがある・・
地方都市に在るためキャンパスは広く
とてもゆったりとしてクラブ活動も盛んだ!
校内を歩いていると
色々なクラブの勧誘をされる・・
気になったクラブは
① オートバイ部
② 野球部
③ 自動車部
などであった
オートバイ部は勿論“ホンダホーク”に乗っていたので
一番気になっていた・・
しかしホークは
「危にゃーで!とーぶんビャークは
持ってってあかんがね!」
と言う“おかん”の言葉で現在は実家で眠っていた!
「オートバイが無いといけませんか?」
派手な看板が掲げてあったオートバイ部のブースで
ちょっと話を聞いてみた・・
「そんなこと無いですよ!」
「それに菅生でサーキット走行もやりますよ!」
「ええっ!サーキットでレースをやるんですか!」
「レースは一部の人だけだけど・・」
「全員レースをやるんじゃないですか?」
「やっぱり才能がないと危ないからね!」
「そうですか・・」
次に野球部へ行ってみた
野球部は結構な人だかりで人気があった・・
「君は何処を守ってたのかね!」
「いやーー今まで野球部は無かったので・・」
自分の出身の中学も高校も野球部が無かった
高校では有志で野球部を作ろうと活動していたが
最後に顧問の先生に成り手が
現れなかったので実現しなかった
「経験者じゃないのか・・」
「はーー!」
「それじゃ・・苦労するな!」
―――(こりゃ大変だ)と思い
「また来ます」
と言って離れた・・
最後は自動車部だ
「君はダートかメカかどちらを希望するのですか?」
「ダートって何ですか?」
「未舗装の道でタイムを競って走る競技です!」
「未舗装ですか・・」
「メカも面白いですよ!」
「エンジンをばらしてボアアップやポート研磨を
するのです!吹けが違ってきます!」
まだその頃は免許取得時の教習上でしか車の
運転したことが無かったためピンと来なかった・・
「有難うございました」
さっさとその場を離れた
弓道部のブースがあった
黒い羽織袴をまとった2人の方が立っていた
―――(あのスタイルはかっこいいぜ)と思ったが
「あのーー轟先輩に聞いてきたのですが・・」
神妙な顔で尋ねた
「轟先輩のアパートの新人だな!」
背の高い方が笑って答えた
「それで何時から来るんだ!」
背の小さな方が威圧的に言った
「いやーまだ決めたわけじゃ無いんだけど・・」
「何言ってるんだ!
轟先輩は入部希望者だと言っていたぞ!」
背の低い方が〝むっ〟として言った
「まあまあ平泉!そんなに無理に薦めても・・」
「だってこいつが決めてないって言うから・・」
「とりあえずこうしてブースに来てくれたから
見学するって言うのは如何かな?」
「見学!」
「そう!丁度 今~練習中だから見学しに行こうか!」
「はぁーー!」
「よし決まった!それじゃ平泉ちょっとこの新人を
道場に案内するから後は頼むぜ!」
「おう!わかった」
背の高い方はニコニコしながら先に歩いて行く
仕方が無いので後を付いて行く
「俺は柏崎って言うんだ・・宜しく!」
「一応 弓道部の主将を務めている」
「部員は22名でアットホームな雰囲気で
みんな楽しんでるよ!」
「弓道は武道だが精神を重んじる立派な
スポーツで・・」
柏崎先輩は矢継ぎ早で言葉を投げかけてくる
「ほら着いたぜ!ここが弓道場だ!」
≪セイヤッー・・セイヤッーー≫
妙な掛け声とともに
プレハブ建物の一面が空いていて
そこに5人の方が立って弓を放っている
≪シュパッーー・・シュルーシュルー・・パスンンン≫
弓は綺麗な弾道で二十数メートル先の白黒の的に当たった
≪セイヤアッーー!≫
また妙な掛け声を皆で言う・・
よく見ると1人は女性だった!
「あれれ・・女の子もいる!」
(注:このキャンパスは工学部だけのため女性は学生数の
2~3%しかなく ほとんど見かけることは無い)
「開成公園に女子大があってそこの弓道部と一緒に
活動してるから 結構行き来してるんだ!」
「そういえば今度の日曜日に開成公園で花見を
やるのだけど そのときに女子大の弓道部員が
15名程来るかな!」
―――(女子大生♪工学部だから可愛い子ちゃんには
縁が無いと思っていたぜ!
このクラブに入れば彼女が出来るかも♪)
「分かりました・・それでは入部します
柏崎主将宜しくお願い致します!!」
「おう!そうか入部してくれるか
それじゃ今後とも宜しく!」
今年の新入部員は全部で5人!
新人教育担当はあの平泉さんだった・・
一応 副主将で何かと自分に辛く当たる
「こら!おまえ!何やってるんだ
正座も満足に出来ないのか!」
何かと正座をさせられるが
すぐに足が痺れて満足に座れなくなる
足を組み替え組み換えモゾモゾしていると
「こら!しっかり座ってろ!!」
≪バシィィーーーイ≫
副主将が俺の左肩に竹刀を振り下ろす
「いてててええーー」
ちょっと大げさに左肩を抑えてうずくまる・・
「おいおい大丈夫か!」
柏崎主将が心配そうに寄って来るが
「甘やかさないで下さい!
こいつはこのぐらいしないと言う事を聞きません!」
「そうか・・まあ任せたのだから」
そう言って主将は戻っていく
―――(ちぇっ・・折角大げさに振舞ったのに
見透かされているな・・)
また最初の正座のスタイルに戻った
他の4人は目をつぶって正座をしている・・
暫くすると
「よーし!それでは次に外に行くぞ!」
立とうとするが足が痺れて~~立てない
「おい!大丈夫か!」
新入部員の一人の吉野が心配そうに手を貸してくれた・・
「何か悪い事したのか・・
平泉副主将は何故か君に辛く当たるな」
「いやーーこれも鍛錬さ!」
二人でヨロヨロしながら外に出て行くと
「こら何やっている!遅いぞーー!」
平泉副主将はまた竹刀を振り上げると
俺の左太ももに振り下ろした
≪バッシイイーーイ≫
「いてててえええーー!!」
今度はさっきより痛く・・左太ももを押さえて座り込む
「もういい!こんな馬鹿は相手にしないで
あとの4人はこの弓と矢を選んで・・」
そこには古い弓と矢があった
しょうがないので・・
左ももを押さえながら立って弓と矢を選ぶ
「おっ!おまえもやるのか・・」
「はい!お願いします」
吉野の横に直立不動体制で立つ
「よし!これから《巻藁》を始める」
「おまえたちは形を作るため・・
これから毎日この藁に向って矢を放つんだ!」
そう言うと華麗なフォームで弓を引き
藁に向って矢を放った・・
≪シュッパッードスゥゥウ≫
矢は藁の束の真ん中に突き刺さった
――(悔しいけど矢を放つ姿はかっこいいな)
「しかし・・おまえらはまだ弓を引けないと思う」
「まず弓だけで形を作る・・これを《素引き》という」
そう言って弓だけを引いた
≪ビイインンンーー≫
「こんな要領だ!」
次に副主将は吉野に向って・・
「よしっ!吉野やってみろ!」
ちょっと華麗なフォームで弓を引いた・・
≪ビイインンーー≫
彼は経験者だった・・
「さすがに高校時代に主将をやっていただけあるな」
「だが・・まだまだ学ぶものがある!」
副主将は〝にやっ〟と笑って
「とりあえず皆と一緒に《素引き》をやってもらう」
「はいっ!分かりました!」
威勢の良い声で答える・・
「よし始め!」
その言葉と同時に皆は《素引き》を始めた・・
「こんなの簡単だがや!」
そう言って弓を引こうとしたが
重くて弓が引けない・・
周りを見ても吉野以外は同じようだ
「よく見ろ!こんな要領で弓を引くんだ!」
副主将は両手と弓を上げて・・
下ろすと同時に弓を引く
皆も真似をする・・
弓をフラフラさせながら引けた・・
「出来たぞ!」
一番端の奴が嬉しそうに言った
「何とか引けたな・・
でもこんなにフラフラしていたらとても矢は放てんぞ」
「もっとケツに力を入れて
下半身をしぼって安定させるんだ!」
「おい!俺のケツを触ってみろ!」
一番端の奴が 恐る恐る副主将の尻を 触った
「げっ!硬い・・すごい筋肉だ!」
――(げっ!男のケツを触る趣味は無いぜ)
・・そう思って横を向く
「よし!吉野は《巻藁》をやれ」
「他の奴はランニングだ!
大学の周りを10周して来い!」
「はい!分かりました!」
一番端の奴が元気良く言うと出て行った
俺も外に出て走った・・
この大学のキャンパスは広い・・
8周も走ると足が悲鳴を上げる
しかしフラフラしながら完走する
――(そういえば途中から後の3人の姿が無いなあ)
と思うが気にしないで道場に帰ると・・
後の3人は《素引き》をやっていた
――(こいつら何時の間に10周走ったんだろう)
そう思ったとき副主将が・・
「遅いぞ!他の奴らはもっと早く帰ってきたのに
何やっていたんだ!」
「こいつら本当に10週走ったのかよ!」
「遅く来て何言ってるんだ!
おまえは正座してろ!」
≪バッシイイイ≫
竹刀を床に向って叩くと
正座をさせられた・・
そして・・
~~~~~
「よーーし!今日はこれまでだ!」
柏崎主将が皆に声を掛けた
「お疲れ様!」
吉野が声を掛けてくれた
その他の3人はさっさと帰っていく・・
「なんだ・・あいつら俺が気に食わないようだぎゃー!」
「いや・・副主将からの当たりが悪いから
仲良くすると点数が下がると思ってるようだ!」
「それじゃ・・吉野も俺と一緒にいると評価が下がるがや!」
吉野が笑いながら・・
「そんなわけ無いじゃねーーか!」
「それより左ももは大丈夫か?」
トレーニングパンツを下ろすと・・
左ももが紫色に内出血していた・・
「おい・・結構ひどいじゃないか」
「いや!大したこと無いがや!」
トレーニングパンツを上げて・・
「それじゃ・・帰るぜ!」
「おう!それじゃまた明日・・」
「またな!」
吉野に手を上げて道場を後にした
① 素引き
矢を持たずに弓だけで行なう
かけを付けて実際に弦を引っ掛けながら練習する
矢が無いことと弦をかけから離さないこと以外は
普通に弓を引くことと変わらない
② 巻藁
巻藁に向かって実際に矢をつがえて引き放つ
初めて矢を放つ練習方法
巻藁とは弓道における型の稽古用の的である
藁を長手方向に矢が突き抜けず且つ矢を
傷めない程度の強さで束ね 然るべき高さ
の台に乗せた物を言う
次の日起きると・・左ももは昨日より
腫れていた・・
「くそ!あの平泉の野郎!」
「今日は休もうかな・・
いや!休むとあいつの思惑にはまるからなー」
「くそーー!負けるもんかぁぁ!!」
そう言って・・大学に向った
そして開成公園の花見の日
一人で場所取りをしていると
吉野達が酒とつまみを持ってやってきた
「場所取りお疲れさま!」
副主将の指示で朝からここで場所取りをしていた・・
「もうすぐ先輩たちが開成女子大の弓道部員と
やってくるから・・準備しようぜ!」
吉野が嬉しそうに言う・・
準備をしていると・・先輩たちと女子大生達がやってきた
「準備は出来てるか?」
平泉副主将が吉野に尋ねた
「はい!大丈夫です!」
「よしそれじゃ・・皆 座って乾杯だ!」
新人が先輩のグラスに日本酒を並々と注いで廻る・・
「よーーし!みんな酒は行き渡ったな・・
昨年の大会はいい所まで行ったが
最後に逆転された・・
今年は有望な新人が5人入ったし
2年と3年も力をつけてきた・・
今年こそ優勝しようじゃないか!!」
柏崎主将が立って一気にそう話すと杯をあげて・・
「優勝に向けて・・乾杯!」
「乾杯!!」
そしてグラスの酒を煽ぐ
まだ未成年で
酒は少し飲んだことがあった程度だった・・
そして・・酒盛りが始まった
「よう・・なかなか頑張ってるじゃないか」
柏崎主将が一升ビン片手に寄ってきた
「平泉は有望な奴には厳しくするんだ・・」
「本当ですか!あれが有望な奴にやることですか?」
「でも・・結構付いて行っているんじゃないか!」
「俺は負けるのは嫌いだし・・」
「それで結構!」
「まあ・・飲め!」
グラスに酒を注がれた・・
ぐいっと酒を飲む・・
その時・・柏崎主将の横に品の良さそうな女性が座わった
「花園さん・・こいつが例の新人だ!」
品のいい女性-花園さん-に紹介した
「なかなか可愛らしい新人ね!」
顔に似合わず気は強そうだ・・
「平泉くんに負けちゃダメよ!」
「はあーー!」
「花園さんは 弓道部のキャプテンを務めてる!」
「そして・・花園キャプテンになって
開成女子大学弓道部は
東北リーグの初優勝をしたんだ!」
「初優勝・・」
「とても聡明で優秀な女性だよ・・」
「また・・柏崎君は・・
でもそんなに褒めても何も出ないわよ!」
花園キャプテンは笑いながら柏崎主将の肩を軽く叩いた
そのとき・・向こうで平泉副主将が立って
「ここで5人の新人を紹介する!」
「おい!新人こっちへ来い!」
5人が前に立った・・
「こいつが今年一番の有望新人の吉野だ!」
そして・・・他の3人を紹介して・・・
平泉副主将が俺の横に立った
「最後が今年一番のダメ新人だ!」
彼は俺の肩に手をおいてニヤニヤしながら言った
「・・・」
―――(このやろー言いたいこと言いやがって)
右手のこぶしに力が入ったが・・何とか押しとどめて
「よし!ダメ新人・・この桜で《ミンミンゼミ》やれ!」
「・・・」
―――(えーー《ミンミンゼミ》って何だ??)
その時・・吉野が
「吉野ことダメ新人が《ミンミンゼミ》やりまーーす!」
そう叫んで桜の木に昇り・・へばり付いて
「ミン・ミン・ミン・ミィーーン」
と大声で始めた・・
「ワッハハハハ!!」
周りは爆笑の渦となった・・
平泉副主将を見るとこちらを睨んでいる・・
―――(平泉のやろーー・・しかし俺のために
吉野は笑いものにされている・・・)
そう思い・・酒を〝ぐい〟っと一気に煽って
「俺も《ミンミンゼミ》やりまーーーす!」
吉野より大きな声で叫んで・・
吉野がへばり付いている隣の木に昇り
「ミン・・ミン・・ミン・・ミィィーーーン!」
もっと大きな声で叫ぶ!
開成公園で季節はずれの二匹のミンミンゼミの
泣き声が・・コーラスとなって木霊した・・
次の日・・
「昨日はご苦労さん!」
道場の入り口で柏崎主将に肩を叩かれて・・
「ミンミンゼミは良かったが・・
その後に花園キャプテンと
親しくし過ぎたのは ちょっとなーー」
「えーー!実は・・ミンミンゼミの後は
酔っ払って記憶が無いんですが・・
今朝は頭がガンガンして やっと直ってきた所です」
「そうか記憶が無いか・・それじゃしょうが無いな!」
「・・何かまずい事やりましたか!」
「いやいや!花園キャプテンは楽しんで・・
君のことも面白い新人だって言っていたが
平泉がな・・・」
「平泉副主将が如何したんですか?」
柏崎主将が目を伏せて・・
「いやーーあいつのプライベートなことだから・・」
そう言って早足で道場に入った
その時・・後ろから
「ちょっと・・やり過ぎたぞ!」
吉野が難しい顔で言った・・
「だから・・俺は覚えていないんだがや・・」
「覚えていなくても・・
花園キャプテンと親しくしたのには変わりがない」
「でも・・
なんで花園キャプテンと親しくして駄目なんだ!」
「実は平泉副主将がぞっこんなんだ・・」
吉野が下を向いて言った
「平泉副主将がぞっこんで・・
花園キャプテンは如何なんだ?」
「それが・・
なかなか相手にされなくて・・多分片思いだと思う」
「それなら・・俺が親しくしても問題ねーーがや!」
「そう思うか・・
タダでさえお主のことが気に入らないのに・・」
「・・・」
「これから・・今以上に辛く当たるぞ・・」
「・・・」
その日から・・平泉副主将のいじめは激しくなった・・
しかし・・俺はそのいじめに耐えた!!
そして6月になった・・
その日も竹刀であちこち叩かれ・・
体はあちこちが紫色に腫れてもうボロボロだった!
そして・・その日も《巻藁》をやっていたが
後ろから・・
「ダメだ!ダメだ!おまえはぜんぜん上達しねーな!
・・女の扱いだけは上達したか!」
無視をしていた・・
「おい!何とか言ったら如何だ!」
それでも無視をしていた・・
≪バシィィーーーイ≫
竹刀が飛んできた・・
左手に当たる・・
「いてててえええーー」
昨日叩かれて腫れている箇所だった・・
片足をついて・・平泉副主将を睨んだ・・
「なんだ!!その目は!」
≪バシィィーーーイ≫
「いててっててええええーー」
左耳に激痛が走った・・
左手を添えたが・・
生暖かい物が首筋を伝う・・
左手を見る・・
左手が真っ赤に染まっている・・
その時――〝プツン〟と何かが切れた
≪バシイイイーーーーーンンン≫
小柄な平泉副主将が吹っ飛んでいく・・
体重が乗った右ストレートが
平泉副主将の左ほほに綺麗に決まった!!
周りは≪シィーーーーン≫となった・・
平泉副主将は白目を向いて倒れている・・
「おい!大丈夫か!」
一瞬遅れて・・柏崎主将が副主将のところに駆け寄る
その他の先輩も駆け寄った・・
「脳震盪を起こしている・・保健室に運ぶんだ!」
「誰か担架を持って来い!」
吉野が担架を持ってきた・・
平泉副主将を担架で保健室へ運んでゆく
そして・・俺はヨロヨロとその場を離れた
アパートに帰ると真っ暗な部屋の中で正座をした・・
もう・・左耳の出血は止まっていた
目を伏せると――
今までの出来事が走馬灯のように駆け巡る・・
平泉副主将の顔が歪んで出てくる・・
柏崎主将の笑った顔が出てくる・・
吉野の人の良さそうな顔が出てくる・・
花園キャプテンの品の良い顔が出てくる・・
―――(もうあの弓道部には戻れないな・・)
そう思いながら・・
暗い部屋の真ん中で真夜中まで佇んでいた・・
数日後・・
弓道部には行かずにブラブラしていた・・
その日もバイト後に自分のアパートに戻ってくると
外に柏崎主将が立っていた・・
「よう!遅かったな!」
「すみません・・待たせてしまったようで・・」
「勝手に待ってただけだ!」
アパートの鍵を開けて・・
「どうぞ・・狭い部屋ですが」
そう言って柏崎主将を案内する
部屋に入って向かい合って正座した・・
「あの後・・勝手に帰ってしまって済みませんでした
平泉副主将は大丈夫だったでしょうか・・」
「ちょっと・・脳震盪を起こしただけだから
すぐに気がついた・・何とも無かったぜ!」
「それより・・お主の左耳は大丈夫か?
平泉がちょっとやりすぎた様だが・・」
「大したことは無いです」
もう傷口の瘡蓋も取れてしまっていた
「それで・・何時から来るんだ?」
「・・・」
「辞めるなんて言うなよ・・俺はお主を買っているんだ!」
「・・有り難うございます」
下を向きながら言った
「この件は平泉の方が悪いから・・早く戻って来い!」
「・・・」
「俺は吉野よりお主のほうが次期主将と思っているんだ!」
―――(柏崎主将はそこまで俺を思っていたんだ・・)
そして・・決心して顔を上げて
「やはり・・平泉副主将の手前もう戻ることは出来ません!
後輩に殴られ脳震盪でぶっ倒れたなんて
とても・・そんな後輩と仲良く出来ますか?
また 俺の方もぶっ倒した先輩から
言うことなんて聞けません・・
この遺恨はけっして消えないでしょう!
柏崎主将と吉野にはとても良くして頂きました・・
そのご恩は忘れません!」
柏崎主将は腕を組んでいたが・・
一瞬〝コクン〟とうなずいて・・
「そうか・・そこまで言うんだったら
俺も諦めよう・・但し〝けじめ〟はつけろよ!」
「〝けじめ〟?」
「そうだ・・弓道部は体育会だし
弓道は精神を重んじる武道だし!」
「何をすれば良いんですか?」
「それは自分で考えるんだ!」
「分かりました・・」
「それじゃ・・明日 道場で待っているから・・」
「明日 伺います!」
柏崎主将は帰っていった
1人で部屋に残った・・
―――(〝けじめ〟って何をすれば良いのだろう)
―――(ヤクザみたいに指を詰めればいいのかな・・)
その夜・・一晩考えた・・
そして次の日・・朝一番で駅前に行った
ある店のドアを開けて
「五厘刈りにしてください!!」
一大決心だった!
そして夕方・・
弓道場には帽子を被って出かけていった
手には汚い字で〝辞表〟と書いた封筒を持って
「こんにちは!」
帽子を剥ぎ取ってちょっと大きな声で道場に入った!
皆-練習中だったが〝シィーーン〟となってこちらを見る
柏崎主将を見つけた・・その目標に向いて歩き出す
前にいた先輩たちが左右に分かれて道が出来た・・
その中を歩く・・歩く・・
柏崎主将の前まで来て正座する・・
「大変申し訳ございませんが・・このたび一身上の都合で
弓道部を退部させていただきたいのですが!」
そう言って辞表を差し出した
「そうか・・頭を丸めたか・・」
隣の平泉副主将に向かって
「先日は大変申し訳ございませんでした!
今まで色々教えていただきまして有り難うございました」
そう言って・・うつ伏せして最敬礼をする
平泉副主将は〝ぷい〟っと横を向いている・・
「よしっ!〝けじめ〟をつけたな・・
五厘刈りも似合うじゃないか!」
柏崎主将は笑いながら言った・・
―――(似合う・・冗談じゃないがや)と思ったが
「柏崎主将お世話になりました・・」
「今度は違う部に入るのか?」
「いえ!もう部活はこりごりです!
やっぱり俺は自由にやるのが性に合っているみたいです」
「そうかそれは残念だ!
お主なら他の部でもやっていけそうだけど・・」
柏崎主将は隣を向いて・・
「この辞表は平泉に任せる!」
そう言って辞表を渡した・・
平泉副主将は辞表を持ったまま少し佇んでいたが
その後小さな声でボソッと言った・・
「・・・俺も悪かった」
そしてスッキリした顔になり
「本当に辞めるのか?」
「はいいっつ!!」
「そうか・・残念だけど
お前が決めた事なら止められないな・・」
平泉副主将は下を向いて言った・・
「お前なら何処でも旨くやっていける気がする!」
そして最後に
「確かに辞表と〝けじめ〟を受け取った・・」
平泉副主将はちょっと大きな声を放った!
「本当に有り難うございました!!」
深々と最敬礼をして立って踵を返すと・・
先ほどの左右に分かれた道を
歩く歩く歩く!!
道場の出口まで来た・・
踵を返して皆の前に顔を向け
「有り難うございました!!!」
声を張り上げて叫んだ!
そしてもう一度深々と礼をして外に出た!
「ふーー!これで良かったのかな!」
スースーする頭をなでながら
「これで 当分~可愛い子ちゃんとは縁が無いなーー!」
次の日“タロー”が嬉しそうにやってきて
帽子を取ると・・
見事な五厘刈り!
「お前もやったか・・俺もだぜ!」
(注:“タロー”は同じように応援団を辞める際に丸めた)
その後しばらく“五厘兄弟”と呼ばれて
~~~皆の笑いの種になった
PS この物語はドキュメンタリーではなく
作者が勝手に執筆したものです。
よって登場人物や出来事・言動など
事実と相違いたしますのでご了承下さい。
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